エントロピーの式
\( S(E) = k_B \ln W(E) \)
(温度\(T\)とかにも依存するかもしれないですが、省きます。)において、
「状態数」\(W(E)\)というものが出てきますが、
私が大学生のときは、しばらくの間、なんだそれ?となりました。なのでここにメモっておこうと思った次第です
「状態」ってなに
まず、状態数\(W(E)\)は\(E\)に依存しているので、ある系の「エネルギー\(E\)の状態の数」ということになります。
その「エネルギー\(E\)の状態の数」の決め方や、その数を数えようとしている「状態」とはどんなものか、初学者は分からなくないですか?
具体例として、粒子A, Bの2粒子だけからなる系の、エネルギー\( E = 4 [\mathrm{J}] \) の「状態」にはどんなものがあるか、考えますと例えば、
- 粒子A, Bがそれぞれエネルギー\( E_A = 1 [\mathrm{J}], E_B = 3 [\mathrm{J}] \) を持つ
- \( E_A = 4 [\mathrm{J}], E_B = 0 [\mathrm{J}] \)
- \( E_A = 2 [\mathrm{J}], E_B = 2 [\mathrm{J}] \)
:
:
などなど、、、どれも合計\( E = E_A+E_B = 4 [\mathrm{J}] \)となり、これらが1つ1つの「状態」です。
以上を読んで、次にみんな様には次のような疑問を持ってほしいです。
\(W(E)\)って無限にならないの?
え?そんなん
\( E_A = 1.599 [\mathrm{J}], E_B = 2.401 [\mathrm{J}] \)
\( E_A = 0.03 [\mathrm{J}], E_B = 3.97 [\mathrm{J}] \)
とかいくらでも考えられるやん?
\( E = E_A+E_B= 4 [\mathrm{J}] \) の「状態」って無限にあるんじゃね?
と思ってほしいのです。つまりいっつも\(W(E) = \infty\) なんじゃないかと考えられます。
実際では\(W(E) \)は有限でして(まあほぼ無限ですけど)、つまり \( E_A, E_B \) はどんな値でもとれるわけではありません。
これを理解するために量子力学が必要になりますが、エントロピーの式を理解するために必要な事実だけざっくり言うと次の通りです。
平衡状態では、系(の中の粒子たちとか)は離散的な(とびとびの)エネルギーの状態しか取ることができない。
です。まあつまり、\(W(E) \) は有限ですってことです。
もっと専門的なことを言うと、
物質が従う方程式、(平衡状態での)シュレーディンガー方程式を解くことはエネルギー固有値に対する微分方程式の固有値問題になっていますが、
一般に固有値問題では(シュレーディンガー方程式に限らず)なにか境界条件のもとでは固有値たちは離散的な値をとります。
ここで、「平衡状態」というのは、注目している系と他の系との間に物質やエネルギーなどの流れが「正味」存在せず、「正味」で何も変化が起こっていない状態のことでした。
そもそもエントロピー\(S(E)\) は、平衡状態でしか定義できないものだったこと、忘れていれば復習しましょう。
よって状態数\(W(E)\) も平衡状態にだけ出てくるものです。
ただし、実際問題、物質の正味の流れが存在するような「非」平衡状態においても、
作用しあう粒子が多すぎて、平衡状態とほぼ変わらないと見なせます。
流体力学などではそれを「局所平衡」などと言ってエントロピーを定義しています。
そしてさらに次に、次のような疑問を持ってもらいたいです。
とびとびエネルギーの隙間では\(W(E) = 0\)?
じゃあその離散的な(とびとびの)エネルギーの、間の値\(E\)に対して、
\(W(E) = 0\) になるってこと?状態無いんでしょ?
と。
これに対して結論、そうはならない「視点」で見ています。
\(S(E)\) がそもそも「巨視的な」(マクロな)視点から見た量だということを
思い出さなければなりません。
「微視的な」(ミクロな)視点から、例えば粒子1つがとるエネルギーくらいのエネルギースケールで見ると、そのとびとびのエネルギーの隙間たちは、無視できないほどの大きさかもしれません。
しかし「巨視的な」視点からはその隙間はほぼ無いようなものです。
\(W(E) \) は 微視的に厳密にエネルギー\(E\) である状態の数ではなく、
ある程度\(E\) から「幅をもったエネルギー帯」の状態の数を意味します。
ではその「エネルギー帯の幅」はどう決めるんでしょうか?
これはミクロな幅であれば、だいたい、でいいです。あんま大きさ考えなくいいです。
んなてきとーな、、、あほちゃうかお前、、、と思われたかもしれませね。
では、例えばそのエネルギー帯を、ある値から2倍にしたとしましょう。
そうすると、状態数は \(W\) を元の値として、だいたい\(2W\) に変化すると考えられます。
そしてエントロピーは
\(
S_{\text{幅を2倍にする前}} = k_B \ln W
\\
\rightarrow S_{\text{幅を2倍にした後}} = k_B \ln 2W = k_B \ln W+ k_B \ln 2
\)
と変化することになります。しかし、エントロピーが定義できるような問題では、\(\ln W\) という量は、系の莫大な粒子数(アボガドロ定数のスケールの数)に比例します。それに比べたら\(\ln 2\) なんてゴミです。
ですので、
\( S_{\text{幅を2倍にした後}} = k_B \ln W+ k_B \ln 2
\\
~~~~~~~~~~~~~~~~~~\approx k_B \ln W
\\
~~~~~~~~~~~~~~~~~~=S_{\text{幅を2倍にする前}} \)
となります。つまり、\(W\) を決める「エネルギーの幅」は、
エントロピー\(S\) のために(対数\(\ln\)の中で)しか使わないので、てきとーでいいんです。
まとめ
以上から、\( S(E) = k_B \ln W(E) \) の意味がだいだい分かったのではないでしょうか。
そして、
やはり「状態数」という言葉だけではとっても不親切な気がするので、
長くなってもたとえば「エネルギー状態数」などと呼ぶべきではないかと思います。
こここまで読んでいただき、ここころより感謝申し上げます。