物理

タイトバインディングモデルの状態密度(2次元長方格子)

ここでは、2次元長方格子のタイトバインディングモデルでの状態密度を求めます。

1次元についてはこちらの記事を読まれたら幸いです。(3次元はそのうち書きます)

tight_binding_1d
タイトバインディングモデルの状態密度(1次元格子)

2023/7/4  

この記事では1次元格子のタイトバインディング(tight-binding、強結合、強束縛)モデルでの状態密度を導出していきます。 もともと、1,2,3次元まとめて書こうかと思ったんですが、ばか長くなる ...

2次元長方格子のタイトバインディングモデルの状態密度

2次元長方格子のタイトバインディング(tight-binding、強結合、強束縛)モデルの分散関係が

\( E(k) = 2t_x \cos(k_x a ) + 2t_y \cos( k_y b ) \)

となることを前提知識として説明します。

2次元長方格子のタイトバインディングモデル

ここで、簡単に見えるために、クーロン積分(原子が孤立している場合のエネルギー固有値。よく\(E_0\) や \(\epsilon_0\) で表されかと思います。)を基準にエネルギー \(E\) を測っていることに注意です。\(t_x, t_y\) は飛び移り積分(ホッピング)、\(a, b\) は格子定数です。(上の図)

また、結晶の\(x, y\) 方向の長さ(周期境界条件の周期)を\( (L_x, L_y)=(N_xa, N_y b) \) とし、原子の数を \(N= N_x \times N_y \) 、結晶の面積を \(S= N_x a\times N_y b\) とします。

結論を先に申しまして、状態密度\( \frac{dN^*}{dE} \) は、

2次元長方格子のタイトバインディングモデルの状態密度

\( \displaystyle
\frac{dN^*}{dE} =
\displaystyle \frac{2N}{\pi^2} \int_{0}^{\pi} \mathrm{Re} \left( \frac{1}{ \sqrt{ 4{t_y}^2- \left(E-2t_x \cos \kappa \right)^2 } } \right) d \kappa
\)

となります。
(\(N^*\) はエネルギーが\(E\)以下の状態の総数。\(N\) とかぶらないために∗ を付けました。)

格子定数 \(a, b\) に依存しないのですねー
でも飛び移り積分 \(t_x, t_y\) が\(a, b\) に依存しそうですけど。

(近々、状態密度のグラフも追加しようかと思います。)

導出が気になる方は以下も読んでくださいませ。

導出

初めに、手順は以下のようになります。

  1. 2次元波数空間の、
    等エネルギー"線"上の線素(直線とみなせるくらい微小な線)を辺とし、
    エネルギーが\( [E, E+dE) \) の範囲にある
    微小長方形(下の図を見てください)の面積を求める。
  2. その微小長方形の面積を等エネルギー線全体で足し合わせて(積分して)、
    エネルギーが\( [E, E+dE) \) の範囲にある状態が占める面積\( dS^* \) を求める。
  3. 最後に、その面積 \( dS^* \) を1つの状態が占める面積 \( (2\pi)^2/S \) で割って、そん中の状態数 \( dN^* \) を求める。

ではでは気張っていきましょー


ここから先、\(k_x\)は独立変数、\(k_y\) は \(k_x, E\) に対する従属変数とします。つまり、

\(k_y = k_y(k_x, E)\)

です。もちろんこの独立、従属は逆でもいいです。

です。もちろん\(k_x\) or \(k_y\) を従属変数にしてもいいです。

なぜ、\(k_y\) を \(k_x, E\) の従属変数に
(2つの波数のうち一方をもう一方と\(E\) の関数に)するのか、補足しますと、
これは、状態密度を求めるためには、エネルギーをある値\(E\) に固定して考える必要があるからです。
\(k_x, k_y\) の値は、お互いと\(E\) の値に応じて調節されなければいけません。

また、対称性から、波数空間の第1象限(\(k_x, k_y > 0\))の状態数だけ考えて、
それを\(4\)倍して全体の状態数を求めることにします。

エネルギー\(dE\) 分の”殻”があるわけですが、
この殻の厚さは等エネルギー線の場所ごとに異なり、均一ではありません

等エネルギー線の波数ベクトルが \(\boldsymbol{k}=(k_x, k_y)\) である位置では、

エネルギー\(dE\)分の殻の厚さは \( \displaystyle \left| \nabla_{k} E \right|^{-1} dE\) となります。

これのなぜそうなるかの説明は以下にまとめて畳んでおきます。

微小な長方形は図に表すと下みたいな感じです。

タイトバインディングモデル、等エネルギー線とかいろいろ

波数\(k_x\) の変化\(dk_x\) 分の線素\(ds^*\)は、三平方の定理から、

\( ds^* = \sqrt{ dk_x^2 + dk_y^2 } = dk_x \displaystyle \sqrt{ 1 + \left( \frac{ \partial k_y }{\partial k_x} \right)^2 } \)

となります。ちょいと計算してみると、

\( \displaystyle \nabla_{k} E = \left( -2t_x a \sin(k_x a), -2t_y b \sin(k_y b) \right) , \)

\( \displaystyle \frac{ \partial k_y }{\partial k_x} = - \frac{t_x a \sin(k_xa) }{t_y b \sin(k_yb)} \)

となるので、微小長方形を足し合わせて(積分して)、\([E, E+dE) \) の状態が占める面積\( dS^* \) は、

\(
dS^* = 2 \times \displaystyle \int \left| \nabla_{k} E \right|^{-1} dE \times ds^{*} \\
\displaystyle \frac{dS^*}{dE} = 2 \times 4\displaystyle \int_{k_{\mathrm{min}} }^{ k_{\mathrm{max}} } \frac{1}{ 2 \sqrt{ \{ t_x a \sin(k_xa ) \}^2 + \{ t_yb \sin(k_yb ) \}^2 } }\\ ~~~~~~~~~~~~~~~~~ \times \sqrt{ 1+ \left\{ \frac{t_x a \sin(k_xa) }{t_y b \sin(k_yb)} \right\}^2 } dk_x \)

(因子\(2, 4\) はそれぞれ\(\uparrow, \downarrow\) の状態と
4つの象限の状態を同時に数えていることによるものです。)

\(~~~~~ = 4 \displaystyle \int_{ k_{\mathrm{min}} }^{k_{\mathrm{max}} } \frac{dk_x}{ |t_y |b \sin(k_yb ) } \\
~~~~~ = \displaystyle \frac{4}{b} \int_{ k_{\mathrm{min}} }^{k_{\mathrm{max}} } \frac{dk_x}{ |t_y | \sqrt{ 1- \left\{ \frac{1}{2t_y} (E-2t_x \cos k_x a ) \right\}^2 } } \\
~~~~~ = \displaystyle \frac{8}{b} \int_{ k_{\mathrm{min}} }^{k_{\mathrm{max}} } \frac{dk_x}{ \sqrt{ 4{t_y}^2- \left(E-2t_x \cos k_x a \right)^2 } } \\
~~~~~ = \displaystyle \frac{8}{ab} \int_{ \kappa_{\mathrm{min}} }^{\kappa_{\mathrm{max}} } \frac{d \kappa}{ \sqrt{ 4{t_y}^2- \left(E-2t_x \cos \kappa \right)^2 } } \)

(ここで、\(\kappa = k_x a\) としました。)

\(~~~~~ = \displaystyle \frac{8}{ab} \int_{0}^{\pi} \mathrm{Re} \left( \frac{1}{ \sqrt{ 4{t_y}^2- \left(E-2t_x \cos \kappa \right)^2 } } \right) d \kappa
\)

この積分は(多分)できないです。

ここで、最後の行のように実部をとる関数\(\mathrm{Re}\)を使っときゃ考えなくてもいいかもしれませんが、
\( \kappa_{\mathrm{min}}, \kappa_{\mathrm{max}} \) は状態が存在する範囲での\(\kappa=k_x a\) の最小値、最大値でして、
エネルギー\( E \) によって変わります。

仕上げに、
求めた\( dS^* \) を状態1個当たりが占める面積\( (2\pi)^{2}/S \) で割れば\(dN^*\) になるので、
状態密度\( \frac{dN^*}{dE} \) は、

\( \displaystyle
\frac{dN^*}{dE} = \frac{dS^*}{dE} \div \left\{ (2\pi)^{2}/S \right\}
\\ ~~~~~=
\displaystyle \frac{2N}{\pi^2} \int_{0}^{\pi} \mathrm{Re} \left( \frac{1}{ \sqrt{ 4{t_y}^2- \left(E-2t_x \cos \kappa \right)^2 } } \right) d \kappa
\)

念のためもう一度、

\(E\)はエネルギー、\(t_x, t_y\)は飛び移りは積分、\(N\)は結晶の原子の数です

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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